〜執筆者紹介〜
映画コラムニストの合木こずえです。
映画館で生まれ育ち、役者を目指して 進学し、 結局映画の仕事に戻ったはぐれ者です。 生まれた時からスク リーンの前にいるので、 数限りなく観た映画のシーンが常に頭を駆け巡り、 現実の中にそれを求めて落胆ばかりしています。 |
FROM EASTは、
1995年に一旦東京を引き揚げて来たときに作った上映会です。 フランス映画やイギリス映画が大好きなので、 渋谷のBunkamuraル・シネマや銀座のシネ・スイッチ、 日比谷のシャンテ・シネなどで上映される作品を選定して、 日本映画の秀作も織り交ぜ、毎月1本〜2本、 1週間または2週間と限定して上映しています。 9月25日から10月8日 ※土曜日は 8:30のグッドモーニングショーがあります。一律千円です。 このほかの時間の料金は通常どおりです。 9/25 10/2 8:30/10:30/20:30 9/26〜10/1 10/3〜8 10:30/20:30 なんの予習もせず、この作品を観た。孤独な老人の、なんとも寂しそうな朝。クリスマスが近いのか、ツリーの飾り付けはちゃんとしてある。 孫にでもあげるのだろうか、老人は箱にプレゼントを入れてツリーの下に置いた。ぼそぼそと支度をしてゆっくり歩き出し、フワフワと、もうすでに心ここにあらずの感で出かけて行く。ドアの鍵をかけずに行ってしまった彼に、思わず声をかけたくなる。 彼はスーバーマーケットで働いている。しかしその仕事はまるで同情で与えられたような簡単なものだ。店長が彼に優しいまなざしを向け、この日は早退することになる。 夕刻、老人が疲れた足取りで家に戻ると、人の気配がする。 そこへふいに現れたのは美しい老婦人だった。 彼女は挨拶に来てドアが開いていることに気づき、余計なお節介と知りつつ中に入ってみたという。老人は彼女の微笑みに気を許し、二人は瞬く間に打ち解ける。 ここから先は、映画を観てのお楽しみにしてほしい。 強面の冷たい印象しかなかった彼が、頑固で寂しがりやの老人を演ずること自体、大変な見ものだが、やはり、うまい。人生の蓄積と人間の奥深さがひとつひとつの動作から感じられ、彼ひとりの動作を見ているだけで飽きない。 老婦人を演ずるのは、かつて「ラストショー」で一世を風靡したエレン・バースティン。 77年になった今も、当時と変わらぬ、かわいい色気があり、ひとたび見つめられると吸い込まれそうなオーラがある。 円熟の二人がはじめての恋に気づいたように、初々しい表情で互いを見つめる姿がすばらしい。 お話の事情がなんであれ、二人の純粋な気持ちに刺激され、もう一度恋がしたくなる。そして、人生はいくつになっても、気持ち次第で新鮮に感じられるものだと実感する。 秋の入り口にふさわしい秀作です。 「やさしい嘘と贈り物」LOVELY, STILL 1時間32分 9月25日から10月8日 ※土曜日は 8:30のグッドモーニングショーがあります。一律千円です。 このほかの時間の料金は通常どおりです。 9/25 10/2 8:30/10:30/20:30 9/26〜10/1 10/3〜8 10:30/20:30 アメリカ 監督:ニコラス・ファクラー 料金:当日(大人)\1,700 前売券\1,300 (電話予約受付中) 0263-52-0515 於:塩尻・東座(駐車場完備)
〜映画の見方メモ〜
私の上映会には「通りすがりに時間つぶしのために、ふらっと立ち寄る」方はいません。皆さん、この日は映画を見る、と計画し、スケジュール調整し仕事や家事を片付けてわざわざ来て下さる映画ファンばかりです。ですから当然ながら携帯電話の電源は切って下さいますし、上映中の私語や物音も極力慎んでいらっしゃいます。それは映画に限らず、他人と芸術を共有する場合の最低限の決まり事です。でも芝居やコンサートを観に行くと、必ず無神経な音を出したり携帯の画面を光らせたりする方がいます。そういう方は多分プライオリティーが「そこ」にはないのでしょう。だったら来ないで下さいと言いたくなりますね。ひとつの素晴らしい芸術を他人と一緒に味わう、という歓びは、マナーを守るという思いやりがあってこその感動だと私は思います。
2010/09/08 UP
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