伊那フィル団員のオススメ音楽
〜伊那フィルからのお知らせ〜
今年は、ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1コンサートマスターの日下(くさか)さんが伊那フィルの定演に登場です。

+第21回定期演奏会+
11月9日(日)長野県伊那文化会館
ベートーベン:交響曲第7番
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
ソリスト:日下紗矢子(ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団第1コンサートマスター)
指揮:征矢健之介(東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団)
〜プロフィール〜
伊那フィルハーモニー
交響楽団


〜今回の記事〜
ヴァイオリン奏者
加藤 博 さん
音楽紹介メニューへ
上伊那唯一のオーケストラ、伊那フィルハーモニー交響楽団
伊那谷の音楽シーンを作っていると言っても・・・いいんじゃない?
とにかく、音楽漬けの毎日を送っている伊那フィル団員さんに
音楽について"なんでも"語っていただくコーナーです。
クラッシックはもちろん、音楽だったらなんでもあり!

□ 音楽の深淵、弦楽四重奏

若い頃、弦楽四重奏曲はずっと遠かった。特にベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲は、老後の楽しみと思っていた。だから、あえてCDも買わなかった。弦楽四重奏曲が今面白いのは、自分で演奏するチャンスが巡ってきたからかも知れない。正直、室内楽のおもしろさは、聴くだけではわかりにくいと思う。楽器を演奏しない人には申し訳ないが、そのおもしろさは、演奏することの楽しみでもあり、それで魅力が倍増どころか256倍とか1024倍とかになる(?)。
ここに、音響的快楽は希薄だ。プレーヤーの楽しんでいる姿を、こっそりのぞき見する楽しさが室内楽の聴き方だと(勝手に)思う。指揮者もいないのにテンポが自由に揺れるし、演奏速度にも駆け引きがありドキドキする。弾き方や音色を合わせ、見事なハーモニーを刻んだ上にヴァイオリンがメロディーを歌う。崩壊の危機を誰が救うのかとか、どの楽器を聴いて合わせていくのかなど、マニアックな世界が室内楽。究極まで合奏楽器の数を絞った編成が弦楽四重奏なのだ。これしかない(!)編成で多数の名曲を世に残した先輩、ハイドンは素晴らしい。これは引き算の理論ですね。メタボな交響曲も抗せない魅力に満ちているが、もうそぎ落とせない究極の編成にこそ表現できる自由もある。
さて、どんな曲を知っていますか。モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は弦楽5重奏、シューベルトの「鱒」はピアノ5重奏、ベートーヴェンの「大公」はピアノ3重奏。あれ?弦楽四重奏ってマイナーかな。
あなたは弦楽四重奏をあまり知らない?・・・心配なさるな。偉大な作曲家は、この分野にも膨大な名曲を残している。曲の魅力がわかりにくいとはいえ、その先には財宝が敷き詰められているようなものだ。ハイドンの「皇帝」「ひばり」、モーツァルトの「不協和音」「狩」、ベートーヴェンの「ラズモフスキー」1〜3番、シューベルト「ロザムンデ」、ドボルザーク「アメリカ」など。「あ〜あ〜、なるほど、結構あるのね」と気がつく。「でも途中で寝ちゃうんだよね」・・・そうそう、私も演奏会を聴きに行って寝てしまうことも多い。美しく流れる音楽に浸れ、大音響的快楽が少ないからかな。
演奏は超困難。簡単そうなハイドンやモーツァルトだって、うかつに手が出ない。1パートひとりという世界は、アマチュア楽隊の弦楽器奏者にはつらいのだ。管楽器の皆さん、ほんとうに頭が下がります。自分が弾かなければ音が無くなる、自分が間違えれば曲が崩壊する、なんて考えただけでもゾッとします。おまけに細かいところまでツツヌケじゃないですか。オケやってんだから「合わせる」というのはお手のもの?・・・いやいや、それがそうじゃない。タタタタッと刻むのだって同じような音色と長さ、ニュアンスで音程も当然確実。なんて、簡単じゃない。それがわかるから、CDも「うやうやしく」聴く。
弦楽四重奏曲の美しさといえば、この世の美しさだけではない。ベートーヴェンはかの「第九」作曲後に残した曲といえば、弦楽四重奏曲の傑作と、だれもが太鼓判の後期弦楽四重奏なのだ。そこには、この世の美しさはない。生命を超越した、ただ・・・ただ、美しい世界が広がっている。しかし、涙は流れない。ただ浮かぶだけ。
だから、おすすめする曲はベートーヴェンの弦楽四重奏なのですが、全部素晴らしくて全集をと言いたいところ。ですが、まずは第15番(作品132)を聴いてください。特に第3楽章の「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」は何度聴いてもすばらしい。この曲は映画「敬愛なるベートーヴェン」にも効果的に使われていました。「歓喜の歌」の先にベートーヴェンが見た「感謝の歌」。ただ単に、病状が小康状態になった喜びと受け取っては単純過ぎると思う。
こんなベートーヴェンの弦楽四重奏曲はあまりに速くても、繊細で細くてもいけないと勝手に思う。上手に弾けてもその先がないとダメなのだ。などと、エラそうに思う。特に全集のレコードを残している演奏は皆それを知っている。中でもベルリン弦楽四重奏団(旧ズスケ・カルテット)の全集(現在廃盤)は素晴らしい。ベルリンといっても、ベルリンフィル(西側)じゃなくて、旧東ドイツ系になるのかな。
そう言えば、東独系のベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団のコンサートマスターに、日下紗矢子が第1コンサートマスターに就任しましたね。彼女の演奏は、今年11月9日に伊那フィルとの協演で聴くことができますよ!
多少でも音符がわかれば、一度はスコアを見ながら聴くとなお面白さが深まる。
♪オススメCDはこちら♪