伊那の冬の風物詩 ざざ虫
その一

◆ 「ざざ虫」とは

  ザアザア、ザザ、ザザ、と流れる川の瀬に棲みついている虫の総称で、伊那では冬の漁で捕獲して食べるすべての昆虫を、ざざ虫と呼んできましたが、通常は「トビケラの仲間」「カワゲラの仲間」「ヘビトンボの仲間」の幼虫のことをざざ虫と呼びます。
  それらは全国的に分布している川虫であり、幼虫期は水中に棲み、流れのゆるい浅瀬の石をひっくりかえすと彼らはそこにへばり付いて暮らしています。
  ウグイ(伊那ではアカウオと呼ぶ)、ヤマメ、オイカワ等川魚の餌で、それぞれきれいな水に棲む昆虫たちです。
 しかし、現在、缶詰などで流通しているのは「トビケラの仲間」の幼虫だけです。自家製ざざ虫の佃煮には「カワゲラの仲間」「ヘビトンボの仲間」の幼虫が入っており、とても美味しいのです。
 じつは、私はマゴタが一番美味しいと思います。


トビケラの仲間の幼虫


カワゲラの仲間の幼虫


ヘビトンボの仲間の幼虫
 トビケラの仲間のことを「青虫」、カワゲラの仲間のことを「ざざむし」、ヘ
ビトンボの仲間のことを「マゴタ」と呼びます。この呼び方は猟師さんたち
によく使われていましたが、最近はトビケラの仲間のみ流通しているの
で、「青虫」と「ざざむし」の呼び方が曖昧になってきています。

◆ 漁期と、漁の資格と、水揚量

T 漁期
 漁期は12月1日から翌年の2月末日までです。
 「ざざ虫」たちは、さなぎになる直前が一番大きくなり、それがちょうど12月〜2月に当たります。でも、2月も後半になるとさなぎの巣の糸が硬くなり捕りにくくなります。
 冬はざざ虫たちが餌を食べないので青臭くなく脂が一番乗っています。川の水温が高いとざざ虫は藻類を補食し、そのため胃に藻類が残って青臭いのです。
 12月になり漁が解禁となっても水温が高いうちは漁師は川に入りませんし、業者はざざ虫の買い付けをしません。(おおむね水温4度以下にならないとダメと言われています)


U 漁の資格
 道具を使って大量に捕獲するざざ虫漁(「ざざ虫踏み」と言います)は、天竜川漁業協同組合の組合員であり、なおかつ、組合より許可(鑑札)を受けた者のみができます。
 その許可証は、ざざ虫取りの漁法から「虫踏許可証(むしふみきょかしょう)」と呼ばれます。
 調べたら、昭和24年頃には、おそらく虫踏許可証は存在したと思われます。
 

V,水揚量とその内容
 下の表の「ざざ虫の水揚量」「鑑札発行者数」は天竜川漁業協同組合の統計から、「災害復旧個所数」は伊那市の決算報告書から、「年間
(1〜12月)降水量」は伊那市の統計より調べてみました。
  
年度 ざざ虫水揚量 鑑札発行者数 災害復旧個所数 年間(1〜12月)降水量
平成元年(1989) 100s  29人  111  1,934o
   2年(1990) 2,300s  57人  18  1,359o
   3年(1991) 100s  21人  95  1,890o
   4年(1992) 1,700s  46人  37  1,308o
   5年(1993) 3,000s  52人  40  2,011o
   6年(1994) 2,200s  78人  24     861o 
   7年(1995) 2,200s  70人 
                         
 この表から次の事柄がわかります。

 ●平成元、3年度のように災害個所数が多い年度は、
  極端に水揚量(漁獲高)が少ない。
 ●また逆に平成2、4、5、6年度は、
  災害は少なく水揚量も数値の安定が見られる。

(平成5年度は総降水量と災害数、水揚量が正比例しません。
 じつは、この年は全国的に長雨の続く年でしたが、天竜
 川は大きく荒れなかったのです)

 ●平成元年度、3年度は許可証交付者数が少ない。
  これは天竜川が荒れた年は、水揚量は少ないと漁師が
  読み、虫踏許可証を買う人が少なかったからである。


 昔から集中豪雨、台風などで天竜川が荒れる年はざざ虫たちも流されてしまって水揚量が少ないと言われていましたが、その伝承はこの表でよって証明されました。



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