伊那の冬の風物詩 ざざ虫
その二

◆ ざざ虫の取り方 「ざざ虫踏み」という文化

本格的な取り方(漁協の鑑札「虫踏み許可証」が必要)は次のとおりです。

T 使う道具
                 「四ツ手網」
 自家製のものがほとんど。これはかなり古くから全国どこでも使われている網である。

「かんじき」
 または「がんじき」とも呼ぶ。長靴に付ける鉄製のプロテクター、金靴である。
 名前は同じだが雪路で使うものとは形も材質も当然違う。当然のこととして市販品などない。よって、ざざ虫踏みのプロたちは「踏みやすいよう」各自工夫して市内の鉄工所に発注してそれぞれの物を作る。
戦前・戦中までは素足にわらじで踏んでいたのが、戦後太い針金(8番線)をわらじに巻くようになり、それが進化して現在のかんじきとなったとのことである。
 ここでは上下2形態の「かんじき」を紹介する。


「選別器」

 ゴミとざざ虫を選別する道具。使う漁師と、まれに使わない漁師がいる。
 上に網目の大きさ約1pの金網、下に前記の物よりやや目の小さな金網の二枚の金網を3〜4pの間隔をあけて重ね、その下に川の水が入るようにした箱のこと。もちろん漁師たちのお手製である。
 重ねられた金網の上に四ツ手網に入ったゴミと一緒のざざ虫を置いておくと、ざざ虫は自ら金網を通り抜けて下へ下へと落ちて行く。
 川底へ川底へ、下へ下へと行こうとする虫の性質を利用した本当に良く考えられた選別器である。こうしてゴミは金網に残り一番下の箱にはざざ虫たちだけがたまる。
 そうやって漁師がざざ虫踏みをしているうちに虫たちは「自らを勝手に選別してしまう」のだ。(下欄へ続く)
 この画期的な選別器の原型は、水を張ったたらいに二本の棒を渡し、その上にたらいより一回り小さな板をのせる。そこにゴミと一緒のざざ虫を置く。後は前述の理屈と同じようにざざ虫たちはゴミから這い出してたらいへ落ちてゆく。といった具合である。

 選別器も2形態紹介する。
 左が完全装備の虫踏みスタイルである。
 見えにくいが、左腕に青い布で巻いてあるのが
「虫踏み許可証」。


                      U やり方

 下流に四ツ手網を設置し、その上流から万能鍬で川底の石をいくつか起こし、ひっくり返して四ツ手網の上流へ置く。
 四ツ手網を下流に、身体を上流にして両手で四ツ手網を持ちながら、かんじきでガリガリと石の裏を掻く。
 これが「虫踏み」である。
 石の裏に付いていたざざ虫たちは流されて四ツ手網に入り捕獲されます。
 これを何回か繰り返し四ツ手網にざざ虫や藻などが溜ったら、網の中の大きなゴミや藻等を拾い出し、捕獲したざざ虫をごみと一緒に腰魚籠に入れて、後は前述した選別器に入れるだけです。。
 また、水が濁るとざざ虫漁はできません。
 なぜなら、水が濁ると四ツ手網が川底にしっかりと着いているか否か確認できなくなり、わずかでも網と川底に隙間ができると、掻いて流れたざざ虫がその隙間から下へ下へと、そしてまた、いったん、たまっていたざざ虫もその隙間から下へ下へと逃げてしまうからです。
 護岸工事などで水が濁ると、ざざ虫はまったく取れません。


◆「虫踏み」「ざざ虫」という大変珍しい文化
 「かんじきでガリガリとかく」その動作が「虫踏み」と呼ばれるゆえんです。
 かんじきがなく、わらじで踏んでいた時代も「虫踏み」だったとのことで、当然この言葉は最近できた言葉ではなく、はるか昔から伝えられたものです。
 ざざ虫踏みは伊那路の冬の風物詩として、テレビ、雑誌等の取材が毎年必ず入ります。
 ざざ虫踏みが伊那特有の文化である点は「かんじき」「選別器」に、また「虫踏み」という言葉に、更に前述した「川虫の漁業権」に如実に現われています。
 「かんじき」の工夫と、「選別器」の合理性には驚きを覚えます。そして、おそらく世界でも極めて珍しいと思われる「虫の漁業権」には舌を巻くほかありません。
 ざざ虫は、虫踏みは、伊那にしかない文化なのです。




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